東京高等裁判所 昭和34年(う)1802号 判決
被告人 森永為貴 外二名
〔抄 録〕
弁護人三名の所論は、いずれも被告人森永為貴が原判示第一の(二)の日時頃日新製糖の社長としてその業務上保管にかかる同会社所有の自社株式合計八四万三一五〇株を原判示のとおり自己もしくは幹部役職員の名義に換え、そのまま保管を継続したことはあるが、右は株式を公開するに当り株式の買占による会社乗取を防止するため、自己もしくは幹部役職員の名義株として調整割当をしたに過ぎず、擅に永田清と共謀し、会社所有の自己株式を自己もしくは会社役員の所有に帰せしめたものではないから、原判示第一の(二)の事実は、事実を誤認したものであるといい、更に弁護人芦苅直已及び阿部昭吾の所論は、これに附加して(一)原判示日新製糖所有の自社株式は証拠上、代表取締役社長被告人森永為貴、取締役会長永田清及び同会社総務部次長内藤晃の重畳的乃至共同的保管に属していたと認められるところ、原判決は右三名の保管関係を明らかにしていないから、被告人森永為貴の原判示所為が果して横領罪を構成するや否やにつき審理不尽による事実誤認の疑があり、右株式処分の所為が被告人森永為貴と永田清との共謀に出たものであるとしながら、被告人森永為貴自身についてはこれを着服横領したものと認定し、他方永田清についてはこれを同人の所有株式として配分横領したものと認定したのは彼此相矛盾し、いずれかが不当であり、また原判決は、右株式着服乃至配分の各時期及び態様を明らかにしておらず、更に原判示本文には役員名義の自社株式六九万株を永田清ほか九名に配分した旨記載されているのに、右判文に引用された別表の記載によれば、右六九万株の配分前の名義人には、役員以外の者も含まれていて首尾符合しない。これらの点において原判決には、事実誤認又は理由の不備乃至くいちがいの違法がある。なお(二)仮りに原判示のような株式処分が行なわれたとしても株式の保管状況には何等の変更も生じていないから、右処分行為は各配分取得者をして何等かの債権的利益を取得させたに止まり、業務上横領罪を構成しないというにある。
しかしながら原判決挙示の関係証拠を総合すれば、所論日新製糖所有の自社株式は被告人森永為貴が代表取締役社長として業務上これが保管の責を負い総務部次長内藤晃はこれが補助者として直接管理の衝に当つていたものであり、取締役会長永田清はこれが保管の権限を有しなかつたこと、日新製糖はさきに国税局から自社株式保有の事実を指摘され、これが対策としてこれを店頭売買の形式により株式市場に公開するに当り、社長被告人森永為貴は、会長永田清と共謀の上、両名を含む幹部役職員の功労に対する顕彰方法としてその功績乃至勤続年数に相応する株数の自社株式を擅に自己に分配取得し又はこれら役職員に贈与して各自の個人的所有に帰せしめることを図るとともに右配分株式の無制限譲渡とこれが買占めによる会社乗取りの危険を防止するため各配分株式取得者に対し、株式配当金はこれを付与するが所有株式の譲渡については会社との間にこれが譲渡制限の特約を締結させ、且つ、配分株式の全部を会社に預託させ、終始会社においてこれを保管することとし、被告人森永為貴において配分取得者の諒解の下にこれを実施したものであることを含めて原判示第一の(二)の事実をすべて肯認することができ、爾余の関係証拠に照らして論旨援用の各証拠はこれを措信し難く、記録を精査し、当審事実取調の結果に徴しても右認定を左右するに足りる証拠を発見することができない。なるほど、原判示本文とこれに引用された別表との間に、永田清ほか九名に配分された自社株式六九万株の配分前の名義人の表示において符合しない点の存することは、論旨の指摘するとおりであるが、右は、原判示本文の記載において「各役員等名義」と表示すべきところ、「等」の文字を遺脱してこれを「各役員名義」と誤記したにすぎないことは、右別表記載との対照上明白であるからもとよりこれをもつて判決の理由にくいちがいがあるものとすることはできない。そして業務上横領罪は、業務上占有する他人の物に対し、不法領得の意思の発現と認むべき外部的行為が行われたときにその成立(既遂)を見るものであつて、必ずしも所論のように占有物の費消引渡(現実の占有移転)又は所在の移動等保管状況の外見的変更を伴う処分行為の行われることを要しないものと解するのが相当であるところ、これを本件について見ると、右証拠によれば、被告人森永為貴が自己及び永田清ほか原判示九名に対し擅に、その業務上保管にかかる日新製糖所有の自社株を配分贈与する旨の意思表示をなすと同時に各配分取得者との明示又は黙示の合意により各配分取得者個人のため右株式を占有するに至つたとき、換言すれば、(イ)被告人森永為貴自身に配分した分については、同被告人が自己に対する配分株数の提示を受けてこれを諒承した上、同会社に対し当該配分株式の譲渡証書及び右株式の譲渡制限及び預託に関する念書を差し入れ、同会社から、当該株券の受託保管に関する預り証の交付を受けたとき、(ロ)永田清に配分した分については人を介して同人に原判示株数を配分すべき旨交渉し、その他の者に配分した分については同被告人においてそれらの者にその配分株数を告知し、それぞれ配分株式の譲渡制限及び預託につき諒承を得又は前同株の書類の授受を了し、よつて株主の権利(義務)一切を実質的に取得し、又は永田清ほか九名をして取得せしめ爾後同会社のためにするに非ずして自己又は右永田清等のためにこれを占有保管するに至つたものであることを看取するに足りるから、ここに不法領得の意思の発現があつたものとして、それぞれ原判示業務上横領罪の成立を見るに至るものと解することができ、原判示にいわゆる「配分」とは、かくの如く、自社株式を擅に自己及び第三者に割り当て分配して不法に領得する意思の発現と認められる行為を指称するものであることは、判文を通読して容易にこれを了解し得られるから、横領行為の態様の表現として十分であり、また、たとえこれが被告人森永為貴と永田清との共謀に出でたものであるとしても、配分株式を各自の所有に帰せしめた行為は、これを、右株式を業務上保管する被告人森永為貴の立場から観察すれば、株式を着服横領したに外ならず、これが保管権限のない永田清について見れば他の九名に対すると同様これを同人に配分して横領したに帰するから、前者については着服横領といい、後者については配分横領というも、その認定において彼此何等矛盾するところはない。而して原判決は、かかる株式着服及び配分横領の所為が単一の犯意をもつて昭和三〇年一〇月下旬頃から一二月頃までの間に反覆累行された旨を認定判示しており、これが包括して一罪をなすものと認められることは、証拠に照らして原判示のとおりであるから、原判決が個々の着服及び配分横領行為の日時、態様を具体的に判示しなかつたことを目して罪となるべき事実の摘示に欠けるところがあるとすることはできない。以上、いずれの点においても原判決には、各所論のような事実誤認、理由不備ないし理由におけるくいちがいの非違はなく、所論はいずれもその前提において原判決と異なる事実認定に立脚してこれを論難攻撃するものであつて採用し難く、弁護人佐藤藤佐引用の最高裁判所判例は事案を異にし、本件に適切ではない。論旨はいずれも理由がない。
(小林健 遠藤 吉川)